最近の家電製品はインバータ制御のアクチュエータを搭載したものが増えています。
インバータ制御機器は、電力会社が送電した交流電源を直接モータ等のアクチュエータに印加しません。電源は、整流され、直流電流となって大型コンデンサに充電されます。ここから、機器にとって効率の良い交流電圧と周波数に変換され利用されています。
目次
1 突入防止回路とは
このインバータ回路に、ほぼ搭載されているのが、突入電流防止回路です。
この回路も目的は、経路にあるダイオードブリッジのラッシュ電流の最大値を越さないように抑制するためと、機器の差し込みプラグが挿入されたとき、プラグの先端で火花が発生しないようにするためです。
ダイオードブリッジのラッシュ電流については、素子自体に耐力のあるものが選択できるので、電源が固定されて滅多に電源ラインから分離されない製品であれば、突入防止回路は省略されることもあります。
特に重要なのが、火花の方です。製品自体の性能に問題がなくても、毎回差し込む度に火花がでるとクレームの山です。特に可搬型の製品は、ユーザーが差し込みプラグの抜き差しをする頻度が高く気を付ける必要があります。
突入電流防止回路は大抵の場合、電源投入時だけ電流の経路に抵抗を挿入し、通常の動作時は、その抵抗をリレー等でバスパスする方法が採られています。回路図を下記に示します。
抵抗メーカに上図の回路を示して、抵抗の耐力を確認した場合は、商用電源のピーク電圧
例えば 100VACの場合は 100×√2 ≒141V のDC電圧を印加したものとして、その抵抗の耐パルス特性をもとに可否が判断されていました。
この方法は簡単で、説明が分かりやすいため、ユーザーから問い合わせがあると回答されているようです。
しかし、商用電源は交流ですので、シミュレータで交流電圧を印加することで精度よく瞬時電力を計算し、抵抗使用可否を判断できます。
そして、交流印加時の方が、瞬時電力は小さくなります。
理由は、コンデンサに充電する電流の出力電位が常時141Vの電源からになるか、0~141Vのどこかから出力されるかの違いです。コンデンサがフル充電されるまでは、例えば50Vの点からも電流が流れ込みますので、電力が低くなるのです。
突入防止抵抗は形状が大きいため、小型の抵抗を採用したいため定格は、大抵ギリ設定します。最小限のマージンで抵抗の種類を決定するために、突入時の抵抗にかかる電力を正確に計算することは意味があります。
LTspiceを用いて、突入防止抵抗の値を 47Ω、コンデンサの値を1000μFとしてコンデンサに充電した時の抵抗の積算電力(ジュールで表記)を以下の2つのケースの場合で求めたいと思います。
・商用電源のピーク電圧のDC電圧
・商用電源
2 正弦波のピーク電圧と同等のDC電圧からコンデンサに充電されたときの抵抗の積算電力
回路図を下記に示します。
V1は商用電源のピーク電圧のDC電圧ですが、1秒間のパルス波形とし、以下の様に設定します。
回路図上のV1を右クリックして出てきた画面の[Advanced]のボタンを押すと、下記の画面が出てきますので[Functions]の項目の[Pulse]信号を選択し、下記の様に値を設定します。
設定値の意味は以下です。
パラメータ | 意味 | 設定値 |
Vinitial[V] | 開始時の電圧 | ここでは0を指定 |
Von[V] | パルスがHIGHの時の電圧 | ここでは141Vを指定 |
Tdelay[s] | ディレイ・タイム | ここでは0を指定 |
Trise[s] | 立ち上がり時間 | 0.01msと十分小さな値を設定 |
Tfail[s] | 立ち下がり時間 | 0.01msと十分小さな値を設定 |
Ton[s] | オンタイム(HIGHの時間) | ここでは1s |
Tperiod[s] | 周期秒[s] | ここでは1s |
注意
・Vintialに141Vを入れると、シミュレーション開始時にすでに安定状態になってしまい、過渡応答特性をプロットできません。
・Trise,Tfallの値を0にしてもシミュレーションは動作しますが、過去ここを0にしたときにエラーで止まってしまうことがあったため、必ず小さな値を入力するようにしています。
シミュレーション設定は
メニューバーの[Simulate]から[Edit Simulation Cmd]をクリックすると、「Edit Simulation Command]ダイアログボックスが表示されます。このダイアログボックス内の[Transient]タブで以下の様に設定します。とりあえず0.5sもあればコンデンサに十分充電されます。
結果を下記に表示します。
下の窓から ・コンデンサの電圧(みどり)、電流値(青)
・抵抗R1の両端電圧(ピンク)
・抵抗の電力(グレー) -(V(r1in)-V(r1out))*I(R1)
電流の向きが初期状態で反対になっていますので、”―” 記号を頭につけました。
一番上の窓は電力を示しますので、この期間の積算電力はCtrlを押しながらグラフ窓の上に表示された”-(V(r1in)-V(r1out))*I(R1) “を左クリックすると”Waveform ・・・” の画面がでてきます。その画面の一番下の項目に“Integral” の表示があります。これが突入時に抵抗にかかる瞬時電力となり、9.5959Jとなります。
3 商用電源からコンデンサに充電されたときの抵抗の積算電力
回路図を下記に示します。上記の回路図と同じですが、V1の電源をバルスから正弦波に変更しました。
V1の設定は下記です。50Hz、100VAC(100×√2=141)の正弦波を指定しました。
以下に結果を表示します。今度は正弦波の電圧変化にあわせて、コンデンサに徐々に充電されていくのが分かると思います。一番上の窓が先ほどと同じ抵抗の電力を表すグラフですが、ここで先ほどと同じように、Ctrlを押しながらグラフの上の”-(V(r1in)-V(r1out))*I(R1) “を左クリックして、積算電力7.4443Jの値を得ます。
DC印加時が、9.5959Jでしたので、サージ電力が2割強減少しました。
4 まとめ
以上の様に、突入時の瞬時エネルギーは算出できましたので、あとは抵抗メーカの
「バルス印加時間vsバルス電力」 と 「周囲温度によるディレーティング基準」を参考にして使用可能な突入抵抗を選択することになります。
実際には、電源電圧は マージンを見て110VAC、コンデンサは±20%のものを使う場合は定格容量の20%増しで計算して決めます。
いかがでしたでしょうか。