今回説明するヒューズは、商用電源で動作する製品に内蔵される保護用の電流ヒューズです。
目次
1. ヒューズの規格
ヒューズは製品の保護をするための基本部品です。家庭用の差し込みプラグから給電する製品で、ヒューズの無いものは無いと言っても過言ではないと思います。
さて、そのヒューズですが、規格がいろいろとあります。図 1に同じ定格容量で規格の違うヒューズの溶断特性を示します。よく見ると同じ1Aのヒューズでも1.3A位で切れるものと、2A位で切れるものがあることが分かります。
図 1 同じ定格容量で規格の違うヒューズの溶断特性
※エス・オー・シー株式会社のカタログから抜粋
ヒューズは、適用する規格を確認して選定する必要があります。
その時のディレーティングの目安は、 A種 60%、 B種 70%、 IEC 80%です。
最終的にはメーカに確認してください。
2 ヒューズの規格と通電容量
昔ヒューズメーカの方に聞いた話ですが、「ヒューズの規格は、その電流で切れることを目的としたものと、切れないことを目的としたものがある。」とのことです。
その規格を表 1に記載します。
A種のヒューズはUL(米国)の規格に近い仕様で、定格で切れることを考慮したヒューズです。
IECのヒューズが定格で切れないことを考慮したヒューズということになります。
B種は日本の独自規格で前述の2つのヒューズの中間の特性です。
最近は製品を海外に輸出することが増えましたので、日本独自のB種ヒューズは海外認証を受けるのに何かと都合が悪いため、A種かIECのどちらかのヒューズを使用しています。
表 1 ヒューズの規格と通電容量、溶断電流
規格 | 通電容量 | 溶断電流 | 溶断時間 |
JIS C 6575-2 A種(UL規格) | 1.1倍 | 1.35倍 | 60分 |
JIS C 6575-2 B種 | 1.3倍 | 1.6倍 | 60分 |
IEC 60127 | 1.5倍 | 2.1倍 | 60分 |
これを規格毎に通電容量を記載すると表 2の様になります。
IECヒューズの1Aは、A種ヒューズでは 1.25Aと1.76Aの中間あたり の実力であることが分かります。
表 2 ヒューズの規格と通電容量
定格 | A種 | B種 | IEC |
1A | 1.1A | 1.3A | 1.5A |
1.25A | 1.375 A | 1.625 A | 1.875 A |
1.6A | 1.76 A | 2.08 A | 2.4 A |
2A | 2.2 A | 2.6 A | 3 A |
各規格とヒューズの通電容量の関係をご理解いただけたでしょうか。
3 温度特性
意外と知られていないのですが、ヒューズには温度特性があります。発熱して溶断する素子ですので、周囲温度に影響を受けます。どれくらい変化するかと言うと、これもメーカの技術資料を見ると、例として以下の特性が表示されています。通常の設計では50℃程度まで見る必要がありますので、通電容量は95%程度になることを考慮にいれるべきです。
図 2 ヒューズの温度特性例
※エス・オー・シー株式会社のカタログから抜粋
4 定常電流
仕様書には「I-tカーブ」のグラフが挿入されてきますが、突入時の過渡的な電流の評価は別のグラフを使用するので、定常電流の評価で使うことはほぼありません。
基本、定格電流に対して、必要なディレーティングを取ればOKです。
ディレーティングの値についてはメーカに確認する必要があります。
5 突入電流
I^2-tカープを使って評価します。これは、突入時の電流値とその継続時間をオシロスコープ等で計測し、その表に記載されたカーブに対して十分な余裕のあることを確認する作業です。25%以下と書いてあるメーカもありますが、最終的にはメーカに確認しましょう。I^2-tカープは仕様書に添付されていることもありますが、無い場合はメーカに要求しましょう。突入電流が大きいと経年劣化で、定格以下の電流で切れてしまう可能性があります。
突入に対して耐力が無ければ、耐ラッシュヒューズを使う選択肢もあります。
6 直流ヒューズ
以上の説明は交流ヒューズを前提にして説明しましたが、
最近はインバータ機器の導入で直流側にヒューズを挿入することが多くなりました。交流の場合は、電圧が必ず0Vとなる点があるため、ヒューズが破断した時に発生するアース放電はそのポイントで遮断されますが、直流の場合はそれがありません。その結果、アーク放電が持続し、交流のガラス管ヒューズをつかっていると爆発し、ガラスの部分がはじけ飛んでしまいとても危険です。
そのため、直流回路には直流ヒューズを使わないといけません。
しかし、直流ヒューズは交流ヒューズに比べて流通量が少なく、値段も数倍します。
こんなときは、消弧剤の入ったセラミック管タイプのヒューズを使用していました。もちろん用途をメーカに伝えて、安全が確保できるものを選定します。
最近は電圧の高いチップ型の直流対応ヒューズも出てきたようですので、そちらも選択としてはあるかと思います。
7 製品に使う時のヒューズ定格の表示
交換できるヒューズの近傍には必ず定格電流の記載が必要です。
戦記用品安全法 別表第八 1共通の事項 (2)構造 マに以下の記載があります。
ヒューズを取り付けるものにあっては、その銘板またはヒューズの取付け部に、
電流ヒューズにあっては定格電流を、温度ヒューズにあっては定格動作温度を、容
易に消えない方法で表示すること。ただし、取り換えることができないヒューズに
あっては、この限りでない。
電流定格は必須です。電気用品安全法では、定格電圧については明確な規定はありませんが、輸出時に適用されるIEC60950系安全規格では"定格電流、定格電圧、溶断特性"の表示が求められています。
定格電流、定格電圧、溶断特性をすべて表記すれば間違いがありません。
以上がヒューズに対する設計上の注意事項です。