前回、自己バイアス回路の設計を行いましたが、今回もLTspiceを使って、電流帰還バイアス回路の設計を行います。
目次
1 電流帰還バイアス回路
対象の回路は以下の図となります。
自己バイアス回路では、ベース-コレクタ間に1MΩの抵抗を接続しました。使える抵抗の上限値と考えてくださいと書きましたが、今回の回路のベース電流はR2とR4で分圧される電圧で決まりますので、数十kΩ程度の抵抗が使えます。
ベースの電圧VBは以下の式となります。(ベースに流れる電流は小さいので無視できます)
VB =5V×R4/(R2+R4)
また、VBEの値は お決まりで0.6Vとなりますので
ベースの電圧VBは以下のように表現することも可能です。
VB=0.6V+ R3×Ic(コレクタ電流)
コレクタ電流Icは R1×Ic =2.5V となるように設計します。
2 R1とR3抵抗の定数を決めて動作点のベース電圧を確認
ここで全ての定数を決める前に一旦、R1とR3の値を決めて、シミュレーションしてみたいと思います。
トランジスタは2SC4081を使います。
R1は前回の自己バイアス回路のR1と同じく抵抗値を4.7kΩとします。
ベース電圧VBは、
VB=0.6V + R3×Ic(コレクタ電流)
動作点を電源電圧の1/2の2.5Vとすると、コレクタ電流
Ic=2.5V/4.7kΩ = 0.53mA
R3はR1の1/10の470Ωとします。R1の値が大きいと安定します。
ベース電圧は
VB = 0.6V + 470Ω×0.53mA = 0.85V
となります。
R1とR3の値が決まったところで、シミュレーションしてみます。
ベースとアース間にPWL電源 (開始電圧と時刻、終了電圧と時刻を設定するとその間を直線で繋ぐような電源)を入れ、1秒間に0Vから1Vまで徐々に電圧を上昇させてゆきます。
V2の電圧設定は電源記号を右クリックして以下の設定とします。
ベースの電圧(みどり)が上昇するにつれ、コレクタ電流が増加し、コレクタの電圧(青)が下がります。コレクタの電圧が2.5Vになった時のベース電圧は0.84V、その時のエミッタ電圧(赤)は0.25Vとなります。
ベース-エミッタ間の電圧VBEは
VBE=0.84V-0.24V = 0.6V
となり、予定通りです。
3 R2,4Rの値を決める
LTspiceでベース電圧が決まったので、R2とR4の抵抗値を決めましょう。
分圧値は 0.84Vです。
R4の値を6.8kΩとすると、R2の値は 33.77kΩです。
E6の抵抗値が基本ですので R2の値は 33kΩで決まりです。
さっそくシミュレーションをしてみましょう。
入力信号が0.05Vo-p に対して、出力0.9Vp-pですので、およそ9倍の増幅回路ができ上がりました。増幅器の性能を示す単位としてデシベルを使いますがこの場合
20×log(0.9/2/0.05) ≒ 19dB となります。
さて、増幅率を上げるためにR3に並列にバイパスコンデンサC2を設置してみましょう。出力が2.7Vp-pになりました。27倍の増幅回路です。
デシベルでは28.6dBです。
いかがでしたでしょうか。
現在は、トランジスタで増幅回路を作る機会はないと思いますが、シミュレーションの世界でできると、現象が理解しやすいです。大学時代は、トランジスタのこの増幅作用が良くわからず、会社に入って、現物を作ってみて初めて理解できました。
今は、素子が小さくなり、ユニバーサル基板を使って試作するのが困難になって来ました。その代わり素晴らしいシミュレータがありますので、物も無しに、PCだけで動作確認できる手軽さは使いこなすと捨てがたいです。