昨年の12月は出張で上海の人混みに中にいたことを思うと、1年後の様変わりには驚くばかりです。
当時から、武漢で厭なインフルエンザが流行っているというニュースが流れていましたが、同僚の中国人からは「(随分離れた)武漢でしょ!」と言われ、「へ~、武漢ってそんなに遠いんだ。じゃ、関係ないね。」というのが、最初の感想です。
それが、1年経った今、家から不要不急の外出を控えて、お正月を迎えようとしています。
2019-12の上海・朱家角は人混みでいっぱいでした。
こちらは豫園です。
この1年のコロナ騒動を自分なりにまとめてみました。
目次
1 2020年コロナ年表
まずは、時系列に今年を振り返りたいと思います。
2019-12
中国の武漢で致死率の高いインフルエンザが流行っているとのニュース。
この時点ではほぼ他人事。2020-2-3
横浜港に到着したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」から患者が発生し、港に停留を余儀なくされたたころから、航空機で入国する海外渡航者によってもたらされたウィルスによってだんだん雲行きが怪しくなりました。
2020-2-26
午後には、政府から「多数の方が集まるような全国的なスポーツ、文化イベント等については、大規模な感染リスクがあることを勘案し、中止、延期又は規模縮小等の対応を要請」と発表がありました。
これを受けて、沢山のイベントが自主的に中止となりました。
なかには、Perfume、EXILEのように、26日当日に公演を中止したところもあります。
2/25のPerfumeの東京ドームライブでは、払い戻し対応もしていましたが、会場はほぼ満席でした。
東京事変の復活ライブなどは、中止にしないで随分頑張っていたのですが、3/6の大阪公演から中止になりました。
2020-3-24
安倍総理とIOCバッハ会長との間で、2021年の夏に開催すること、及び東京2020大会の名称を維持することで一致され、IOCの理事会で承認されました。
オリンピック延期は政府のコロナ対策の起点となります。
2020-4-7
夕、新型コロナウイルスの感染が広がっている東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県を対象に緊急事態が宣言され、更に同月16日から5/31まで全国を対象にされました。
年度の終わりと始まりにかけ、多くの教育機関、企業は大混乱でした。
Zoom等によるリモート会議や在宅勤務が増えました。
しかし、緊急事態宣言で人の移動が制限されたおかげで5月終わりには事態は収束に向かいました。
2020-6-19
県境をまたぐ人の移動制限が全面解除されることになりました。
2020-7-22
東京都発着の旅行を除外し、Gotoトラベルを開始します。
2020-10-1
Gotoトラベルに東京が入ります。
2020-12-26
英国で広がっている新型コロナウイルスの変異種が日本でも確認されました。
28日には全世界を対象にとってきた二つの出入国緩和策を停止されました。2020-12-28
感染者の数は増え続け、年末年始期間 2020年12/28--2021年1/11 はGotoトラベルを全国一斉に停止します。
日本の新規陽性者数の推移
厚生労働省H/Pがら 2020-12-27
東京都の新規陽性者数の推移
東京都福祉保健局H/Pから 2020-12-27
2 歴史的パンデミック
直近の全地球規模のパンデミックは、SARSでもMARSでもなく1918年~1920年に流行った100年前のスペイン風邪です。
もともとはアメリカ起源のインフルエンザですが、第一次世界大戦の真っただ中で、連合国側で参戦していたアメリカ兵が欧州に渡り感染が広がりました。
しかし、戦時下のため感染の情報が統制されていました。
結局、中立国のスペインから広まったためスペイン風邪というスペインにとっては不名誉な名称がつけられました。
スペイン風邪では、第一波はたいしたことはありませんでしたが、第二波は毒性の強くなった変異種によってロシア、中国、日本にまで広がり第一波の5倍の死者が出てしまいます。
下のグラフのように結局第三波で収束します。
スペイン風邪と比べて、医療技術的には、現在の方が進んでいますが、当時の地球の人口は17憶人で、現在は77憶人です。
たった100年の間に60憶もの人が増え、交通機関も発達し、人の動きも活発化しました。
比較するには状況が随分違いますが、今回のケースでも、波は3つ、収束は2年程度と覚悟が必要と思います。
3 各国の状況
当初の欧州や米国の対応を見ると、アジア地域に限定して発生した感染症とみなし、東洋人に対する差別が問題となりましたが、このウィルスが現在の様に蔓延するとは考えてなかったのでしょう。2月にはロンドン市長選の保守党候補、ショーン・ベイリーは東京オリンピック開催が難しければ、代替としてロンドンで出来ると述べています。
この時点では、あくまでも地球の裏側の事件でした。
武漢の状況を見て、中国の航空機をいち早く停止したのは、イタリア(1/31)でした。これは日本ではまだ「ダイヤモンド・プリンセス号」が横浜に到着する前で、かなり早い措置です。
当時の感染状況は、首都ローマで中国人観光客2人の感染が確認されていた程度で、他国に先駆けての宣言に、コンテ首相は感染拡大防止策に自信をのぞかせていましたが、その後皮肉にも、欧州で一番感染者の多い国になり、3/16には外出禁止が宣言されます。
どんなに人の移動を制限してもウィルスは軽々と乗り越えてしまうことが分かります。
オリンピックの代替説のあったイギリスも惨憺たる状態で、現在では、変異ウィルスの供給源となっています。
米国は欧州(英国を除く)からの入国を3/13に禁止します。中国からの航空機は6/16に止めましたが、世界最大の感染者を抱えています。
2020-12-26のジョンズ・ホプキンズ大が発表している「Covid-19」の死者の数を示します。
表の青は日本以外のG7で、黄は東南アジアの国です。
理由は分かりませんが、発祥地と疑われている中国に近い東南アジアの死者数が、欧州各国に比べて少ないのが目につきます。
中国、韓国、ベトナム、シンガポールでは携帯電話の情報や市中に張り巡らされた監視カメラ網などを駆使して、人の動きを把握し、感染者をあぶりだして隔離することで一定の成果を上げています。
ネアンデルタール人の遺伝子説
9月30日の英科学誌ネイチャーで面白い論文発表がありました。
ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所で遺伝学部門のディレクターを務めているスバンテ・ペーボのものです。
この人は4万年前に絶滅したネアンデルタール人のゲノム配列を解析していますが、一世一代の花道です。
ネアンデルタール人から受け継いだ遺伝子で、第3染色体にある免疫を司さどるサイトカインに関するパターンが一致するとコロナの重症化率が高いというものです。
この遺伝子を持つ現代人は全体の2%で、中国、日本などの東南アジアにはほとんどいないようです。
これも、東アジアで死者が少ない理由の一つかも知れません。
4 日本の対応
日本ではオリンピックの配慮からか、対策が遅れ、国境が封鎖されたのは3/27でした。
経緯は以下です。
ウィルスのゲノム(全遺伝情報)の解析から、初期のクラスター(感染者集団)は中国・武漢で検出されたウィルスの特徴を備えていましたが、3月以降に検出されたウィルスの多くは、欧州を「起源」とする遺伝子の特徴を備えていました。
ウィルス源は確実に欧州でした。
米国がその状況を把握し、欧州(英国を除く)からの入国を禁止したのは3/13です。
日本もその時点で早急に水際対策を講じる必要があったのですが、政府が欧州などからの入国制限に踏み切ったのはその3/21です。
この裏にあったのは、オリンピックの聖火という一大イベントです。
聖火の採火式は12日、ギリシャで行われました。しかし、その時点でコロナの感染者は欧州に広がっていたため、現地の聖火リレーは初日こそ行われましたが、新型コロナウイルスの感染予防のため、ギリシャ国内のリレーが取りやめとなり、19日にアテネのパナシナイコ競技場にて無観客で開催される大会組織委員会への聖火引き継ぎ式を経て、20日、日本に到着しました。
聖火が日本に来ることが、オリンピックの開催権の担保と考えていた政府とJOCには待望の聖火です。
翌21日、政府は欧州を含む38カ国からの入国者に自宅待機を要請する措置を始めました。この時既に、イタリアの感染者は4万7千人に達し、フランスは1万人を超えていました。
24日夜、首相はIOCのバッハ会長と電話会談し、東京五輪の1年程度の延期で合意した。「東京オリンピック・パラリンピックの中止はないということを確認した」と記者団に発表し聖火移送の目的を果たします。
政府が欧州からの入国拒否に踏み切ったのはその3日後の27日でした。既に欧州各国から帰国した旅行者らを通じてウィルスは都市から地方へ拡散、感染経路をたどれない状況が水面下で進行していました。
これが、オリンピック開催にこだわって、初動が遅れた経緯です。
しかし、この拙速な対応にも関わらず、欧州や米港と比べて、日本の感染者数はかなり低い値に終始しています。
12/21に行われた新国立のこけら落としでは嵐やドリカムも参加して大々的に開催されました。このあと五輪が1年延期になるとは夢にも思いませんでした。
5 対策
各国の対応は基本、患者を見つけて隔離するのが原則です。
潜伏期間に長いこのウィルスに対して、この対策は流行を遅らせ、オーバーシュートを防ぎ、現場の混乱や医療崩壊を避けるのが目的です。
医療崩壊の状態となると都市封鎖(ロックダウン)を行いますが、欧州をはじめとして、かなりの国が実施しています。
ロックダウンを実施した国は以下です。
アメリカ,ロシア,中国,インド,イギリス,フランス,ドイツ,イタリア,スペイン,ベルギー,チェコ共和国,デンマーク,モロッコ,ノルウェー,ポーランド,アイルランド共和国,ポルトガル,スロベニア,スイス,オーストラリア,ニュージーランド,アルゼンチン,コロンビア,イスラエル,サウジアラビア,クウェート,エルサルバドル,ケニア,ヨルダン,南アフリカ,マレーシア,インドネシア
スウェーデンは、集団免疫を目指していると、メディアや書籍には書いてありますが、それはあまり正確な表現でないと思っています。
実際には、数々の規制があり、国民はその規制に従って行動していました。
背景にあるのは、大病院はほとんどが国立であり、コロナ禍においては中央主導で感染症病床を上限なく増やすことができたことで、経済に比重をおいた、どちらかと言うと日本に近いモデルと考えています。
にもかかわらず、表にあるように
人口1000万人弱のスウェーデンの死者は8279人で
1億2571万人の日本の死者は3035人となっています。
スウェーデンは現時点で(ロックダウンを行わなかったことを)失敗を認めていますが、同様の措置なのに日本の死者数の少なさは、原因は分かってないですが、かなりラッキーな状況にあることは確かです。
ちなみに、東京の感染状況は随分ひどいとメディアで流れていますが、
厚生労働省が配布している接触確認アプリを11/16にインストールして以来(普及率は20%弱程度)、42日間一度も陽性者との接触報告はありません。
通勤電車は普通に満員です。
6 ワクチン
ワクチンについては現時点で以下の3社のものが海外で接種が始まっています。
会社 | 種類 | 保存温度 |
ファイザーとビオンテック | mRNAワクチン | -70℃ |
モデルナ | mRNAワクチン | -20℃ |
アストロゼネカ | ウィルスベクターワクチン | 2-8℃ |
かなり早くワクチンが出来上がりましたが、人と金を集中させて開発しただけでなく、今回のワクチンは今までの物と違うタイプのもので時間が掛からなかったことも確かです。
通常のワクチンはウィルスそのものであったり、そのたんぱく質成分を注射して、それに対する免疫を付けていました。
この方法では、ウィルスを増殖させたり、精製したりするための沢山のステップが必要で開発時間がかかりました。
mRNAワクチン
新型コロナウィルスのメッセンジャーRNA(たんぱく質の設計図だと思ってください)を体に注入すると、ウィルスのたんぱく質が体の中で作られ抗体が反応し、免疫が出来上がります。
このワクチンではターゲットとなるウィルスの遺伝子があれば、簡単にできあがります。
実際、1月に遺伝子が分かって、2月には試験用のmRNAワクチンが完成しています。
超低温での保存が必要な理由は、mRNAが壊れやすく、低温だと安定するという理由からです。
ウィルスベクターワクチン
人に悪さをしないウィルスにコロナウイルスを作るたんぱく質を 加えこれを投与し、体内で抗体を作らせるものです。
今回は、人に悪さをしないウィルスに、MERSワクチンやインフルエンザ・ワクチンの開発で実績のあるチンパンジーの風邪ウイルスのアデノウイルウイルスを使用しています。
ワクチン投与後
痛み、頭痛、倦怠感が報告されていますが、今のところ際立った副作用はありません。
新型コロナの基本再生産数は1.4~2.5と試算されており、国民の29~60%が免疫を獲得すると収束すると言われています。
麻疹の場合は92~94%ですので、感染力がそれほど高くはありません。
ただし、ワクチン投与後も、従前のように、マスクなしで生活したり、飲み会へ参加できるかどうかは分からない状態です。
6 ウィルスはどこから
感染経路については、現在WHOが調査中で、明確な結論は出ていません。
有力視されているのが、コウモリからセンザンコウに感染し、さらに人間へと感染した説です。
マレーシアから中国に密輸された絶滅危惧種のセンザンコウから、COVID-19の原因となっている新型ウィルスに関係する2種類のコロナウイルス群が見つかったとの報告が香港大学からありました。
センザンコウとは全身を鎧のようなウロコで覆われたアリクイのような哺乳類で、中国では肉が珍味としてに高級中華料理の材料とされにされる他、皮は靴や鞄などに加工され、ウロコが喘息やがんに効く薬となると信じられています。
中国ではいろいろな動物が食べられていますね。
センザンコウから人への感染は食肉を通してあるでしょう。
しかし、コウモリから、アリやシロアリを食べるセンザンコウへの感染はどのような過程だったのでしょうか。
吸血コウモリがこの固い甲羅を噛んだとでもいうのでしょうか。
コウモリと無理やり結びつける考えの根拠が良くわかりません。
下の写真は上海の市場で撮影した写真です。見たこともない食材が並んでいて旅行で行くとなかなか楽しいところです。
7 2021年
2020年は教育現場も経済も未曾有の大混乱でした。
就職の年にたまたま当たった学生さんたちも大変だったでしょう。
ワクチン投与によって、この混乱が収束し、予定通り五輪が実施されるよう願っています。
・参考文献
コロナ後の世界を生きる 村上陽一郎編 岩波新書 2020-9-15
2020/6/25 6:00 (2020/6/25 9:21 更新) 西日本新聞 一面
2020年3月27日 BBCニュース
スペインかぜ フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』2020年12月26日 (土) 18:51
鱗甲目 フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』2020年11月22日 (日) 13:31
スバンテ・ペーボ フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』2020年10月31日 (土) 16:55
NHK サイエンスZERO 2020-12-27 23:30-「新型コロナ“第3波”まっただ中! 全論文解読から見えた戦略SP」