トランジスタは信号のスイッチングだけでなく、直流電源の開閉(スイッチング)としてもよく使われます。
目的としては、CPUまわりの回路の電源経路を遮断して、そこに流れるわずかな電流を止めることで機器の待機電力を減らしたり、不要な操作をユーザーにさせないようにしたりするため端末を使用不能としてしまうことことです。
遮断方法としては機械的なリレー、トランジスタ等があります。
今回は、パイポーラトランジスタと電界効果トランジスタ(FET)を使って電源を開閉するときの特徴を解説したいと思います。
回路図は、まあ、だいたい下記の感じです。
Tr2のベースに電圧を加えるとTr2がONし、
バイポーラの場合は、Tr1のベース電流が流れますので、Tr1がONし、回路に電圧がかかります。
FETの場合はソースとゲート間に電圧が印加され、Tr1がONします。
Tr1はPNPバイポーラでもPチャンネルFETでも同じ回路で動作します。
目次
1 違いと特徴
最初に違いを下の表に記載しておきます。大抵の場合はバイポーラの開閉で足ります。
値段についても記載しましたが、量産ベースではFETの価格がバイポーラの5倍程度高くなります。
項目 | バイポーラ | FET |
電圧降下 | 20mV~100mV | ほぼなし |
電流変動 | 弱い | 強い |
価格 | 安い | 高い |
以下いつものように、LTspiceを使いながら、操作の解説も含めて違いをシミュレーション上で確認してゆきたいと思います。
2 バイポーラトランジスタの場合
LTspiceで下図のモデルを作成しました。
Q1は常時ベース電流を流していますのでONの状態です。この状態でスイッチを使ってR4に電流を流したり、止めたりしてわざと負荷変動を発生させます。
このとき、安定した出力を得られるかどうかを確認しようと思います。
今回のQ1はロームの2SA1576Aを選択しました。
回路図の中にSWの記載がありますが、これは電圧制御スイッチで、一定以上の電圧が+と-の間に印加されるとONするスイッチです。
コンポーネントシンボル選択でSWを選択すると出てきます。
次にそのSWの定義を行います。
回路上でキーボードの”s”、またはツールバーの「.op」をクリックし、”Edit Text on the Schematic”を表示させ、”SPICE directive”にチェックがあることを確認してから、
.Model SW SW(Ron=10m Roff=10meg Vt=2.5)
とタイプします。このコマンドの意味は、
SWと言う名前のスイッチSWの機能定義:ON抵抗は10mΩ、OFF抵抗は10MΩ、+と-間に入力する電圧が、スレッシュホールド電圧(Vt)2.5Vを越すとスイッチがONする。
というものです。このスイッチを繰り返しON/OFFさせるためにV2を設置しました。
回路図上のV2を右クリックして出てきた画面の[Advanced]のボタンを押すと下記の画面が出てきますので[Functions]の項目の[Pulse]信号を選択し、下記の様に値を設定します。
今回は0V←→5Vを0.1秒おきに繰り返すパルス波形を作っています。
パラメータの意味は以下です。
パラメータ | 意味 | 設定値 |
Vinitial[V] | 開始時の電圧 | ここでは0を指定 |
Von[V] | パルスがHIGHの時の電圧 | ここでは5Vを指定 |
Tdelay[s] | ディレイ・タイム | ここでは0.1を指定 |
Trise[s] | 立ち上がり時間 | 0.001msと十分小さな値を設定 |
Tfail[s] | 立ち下がり時間 | 0.001msと十分小さな値を設定 |
Ton[s] | オンタイム(HIGHの時間) | ここでは0.1s |
Tperiod[s] | 周期秒[s] | ON/OFFそれぞれ0.1sのため0.2s |
Ncycle | 繰り返しの数 | 10回 |
V1の設定は 右クリックして出てきた画面に下記のようにDC電圧 15V、内部抵抗0.2Ωを入力しました。
さてここでシミュレーションをしてみましょう。
シミュレーション設定は
メニューバーの[Simulate]から[Edit Simulation Cmd]をクリックすると、「Edit Simulation Command]ダイアログボックスが表示されます。このダイアログボックス内の[Transient]タブで以下の様に設定します。ステップ1msで1秒間のシミュレーションです。
結果は以下のグラフとなります。
トランジスタのコレクタ側の電圧(みどり)
トランジスタのコレクタ電流(青)
スイッチの開閉を示すV2の電圧信号 HIGHでON、LOWでOFF(赤)
電流の増減によってコレクタ側の電圧が0.4V程度変動しているのが確認できるかと思います。これがバイポーラトランジスタを使った電源スイッチの特徴です。出力側の負荷変動が電源のリップルとなって如実に現れます。
ただし、現実的にはあまり問題になるレベルではないのですが、モータの始動電流等大きな負荷で一瞬流れた場合は出力が大きく凹んでしまうこともあります。
また、VCEの電圧が広がれば、その分トランジスタで消費する電力も大きくなります。
3 電界効果トランジスタ(FET)の場合
LTspiceで作成したモデルは以下です。
前回の回路図のバイポーラトランジスタをFETに変えただけです。
PチャンネルのFETはコンポーネントシンボルの選択でPMOSを選択します。
PMOSの種類はリストから出てきたロームのRTR020P02を選択しました。
さて実際にシミュレーションをしてみましょう。
いかがでしょうか、15Vの電源がバイポーラの時に比べ、安定しているのが分かるかと思います。前回は変動が0.4Vでしたが、今回は0.05V程度になっています。
4 まとめ
電源開閉を行う時のトランジスタスイッチでは以下が選択の基準です。
ポイント
バイポーラトランジスタ :安定した30mA程度以下の電流が流れる場合。
電解効果トランジスタ :電流の変動がある場合。電流が多い場合。