メキシコの国旗なんて、よく見たことはなかったのですが、第165回直木賞を受賞した佐藤究(さとう きわむ)の「テスカトリポカ」に言われが書いてありましたので、忘れないうちに書いておこうと思います。
12世紀のころ、アステカは湖の上の小さな島に暮らしていました。
そこは鷺(アサトル)がいたので、鷺の地(アストラン)と言い、その島に住んでいた人々は鷺の地の人(アステカ)と呼ばれていました。
ある日、神官が神のお告げを聞き、新しい土地を探す旅に出ることになりました。
アステカの民は荒野を歩き続け、放浪の旅を続けました。
貧しく、持ち物の無かったアステカの民は、行く先々で蔑まれ、どこかで村を作ろうとすると、そのたびに戦いをけしかけられ、再び荒野に追いやられました。
どれほど旅をしても新しい土地を見つけられず、すっかりくたびれ果てたアステカの民は、トステカ王国の血統を継ぐクルワルカンの王様の処へ行って「どうか土地をお与えください」と必死になってお願いしました。
クルワルカンの王様が、アステカの民にくれた土地は、これまで旅してきたのと変わらない岩だらけで、ガラガラ蛇がうじょうじょいるような荒れた土地でした。
クルワルカンで戦闘員として活躍するアステカ人でしたが、クルワルカンの王娘を殺して、その皮をすっぽりかぶった女が祭礼で踊るに及び、またしてもその土地を追われました。
家族や、仲間を殺され逃げに逃げ、テスココ湖のほとりまで追い詰められたときに、神官が夢を見ます。
サボテンにとまった鷲(クワウトリ)が蛇(コアトル)を食らっている。
そこがお前たちの栄える地だ。
神官はテスココ湖に浮かぶ島、予言とそっくりな光景を見つけました。
そこが約束の地でした。今のメキシコシティです。
鷺の地を出てから200年が過ぎていました。
放浪の旅は終わり、そこからアステカ王国が始まりました。
メキシコの国旗の真ん中でサボテンにとまった蛇を咥えている鷲の絵が描かれているのはこういった理由です。
と言っても、メキシコ国旗をまじまじと見たのは初めてで、中央に描かれた鷲を認めたのも読後でしたが。
何だか、モーゼがエジプトを出て、約束の地カナンを行く物語によく似ていますね。
たぶん、メキシコ人であれば、だれでも知っている話なのでしょう。
メキシコシティは、テスココ湖の埋め立てを経て立地されたために地盤が緩く、メキシコ地震では甚大な被害が生じました。
さて、くだんの本は、このスペインに滅ぼされたアステカ王国の古き習慣を織り交ぜて、麻薬密売と臓器移植の闇ビジネスが展開されてゆきます。
かなり血なまぐさい小説ですが、アステカの死生観「死んで神のもとに帰るといった考え」が至る所にちりばめられ、そのための儀式も殺人現場で行われています。
今まで読んだ直木賞の中でも異色の小説でした。